夢で逢えたら






 山奥にある小さな古寺に、板張りで張り巡らせた廊下の上をどしどしと踏み鳴らし歩く足音が響き渡る。

 寺の廊下には戦場から帰還してきたばかりの負傷した浪士たちで溢れかえっていた。


 憔悴しきったその中を荒々しく歩く姿に、見た人間は思わず身体を避けて道を開ける。


 彼の白い装束は、泥や返り血と思われる赤黒い染みが幾多も咲き爛れていた。

銀色の髪や白い肌に映える赤という色が不気味なほどに纏わり付き、鉄の匂いを漂わせている。

 
  しかし何より、一番畏怖するのはその表情だった。


 戦場から未だ残る殺気、興奮、狂気に満ちた鬼のような形相。


 まさに夜叉であり、それが彼の呼び名となった。


 ばんっと勢いよく開いた襖の音に、中にいた全員が振り返り様声にならない悲鳴を上げ、青褪めて後退る。


 だが、一人だけ驚くことなく冷静に兵士の手当てをしている人間がいた。


 その奥にいた男に向け、男の怒号の叫びが轟いた。


「ヅラァ――!! 高杉はどこだ!!」


 男がゆっくりと振り返り、銀髪の彼を見て苦い顔をする。


「ヅラじゃない桂だ。疲弊しきっている場で大声を出すな。皆驚くだろう銀時」


 それでも銀時と呼ばれた男は構うことなく彼に近付き、やはり大声を張り上げた。


「高杉はどこだ! 何処にいるッ!」


 まるで聞かない銀時に溜息を吐き、桂は仲間の手当てをしていた途中の包帯に再び目を遣り巻き始めた。


「鬼兵隊ならもう此方に向かっている。辰馬等援軍が駆けつけたお陰でどうにか場を回避したらしい。先程伝達があった」


「いつ到着する」


「もう着くであろう。遅くとも夕方までには」


「チッ…」


 強く舌打ちすると、銀時はまた足並み荒く出て行った。


 銀時が去って行った後、一気に緊張感から解き放たれた浪士たちが安堵の息を吐きがてら、口々に喋り出した。


「おっかねえなあ」


「戦場から帰った後の白夜叉には誰も近付けねえよ」


「普段は大人しくてイイ奴なんだけどな」


 男たちの声を聞き流しながら、桂は思わず小声で呟いた。


「全く…本来なら高杉たちの無事をまず喜ぶべきであろうが」


 桂の手当てを受けていた男が目を上げ、微かに苦笑を浮かべた。




 離れにある小さな蔵の裏で、銀時は一人隠れるように蹲っていた。


「はあ…はあ…っ」


 息切れと動悸が止まらない。身体は燃えるように熱く、震えは増す一方だ。


「クソ…ッ」


 戦の後はいつもこうだ。


 命を取り合う興奮、恐怖、葛藤、虚無感。


 様々な思考が入り混じり合い、錯乱状態となる。


「う…っ」


 突然吐き気が襲い、水だけの嘔吐物が吐き出された。


  激しく咽返りながら口端を乱暴に拭う。

「チクショ…ッ」


 銀時は何度目かの舌打ちをし、塀に背を預けて空を仰ぎ見た。


 桂は高杉たちの帰還は遅くとも夕暮れだろうと言っていた。


 どんよりと厚い雲が覆う濁った空だが、日は高い。


 もうすぐ雨が降るかも知れない。


「たか…すぎ…早く来い……ッ」


 祈るように空に向かい訴える。

 顔にぽつりぽつりと小さな雨粒が落ちてきた。


 息切れは止むことなく、急く銀時と同調するように弾む一方だ。


  ――早く、早く…ッ。


 目を閉じて己の疼く身体をどうにか抑えようと努める。


「鬼兵隊だっ!」


 その時、遠くで誰かの声が聞こえた。


 はっと目を見開いた銀時は、気付けば既に足が寺の門口へと向いていた。


 駆けつけた先、見た光景に思わず足を止める。


「坂本さんっ! 高杉さんは?!」


 わらわらと集まってきた浪士たちに囲まれるように、先頭を立って歩いていたのは坂本辰馬だった。

そしてその背中には高杉らしき男が背負われている。


「大丈夫じゃ。ちくっと腕を斬られちょるが命に別状はない。今は眠っているだけじゃ。それより後ろの負傷した仲間たちを看てやってくれ」


 坂本本人もぼろぼろに切れた着物から血が滲んでおり、所々に怪我をしているようだが顔はいつものように笑っている。


「辰馬」


 銀時の声に気付いた坂本が、顔を上げて振り返った。


「金時、おまんも無事じゃったか」


「背負ってきたのか、そいつ」


 突飛もない第一声に一瞬きょとんとした坂本は曖昧に頷いて見せた。


「俺が運ぶ。お前も右足やられてんだろ。早くヅラに診せて来い」


 大丈夫だと言いかける坂本を無視し、銀時は背負われている小柄な男をひょいと持ち上げた。


「あ…」


 坂本は白い背中に今一度声を掛けようとしたが、銀時の纏う不機嫌な空気に気圧され、止めようと持ち上げた手の行き場を失ってしまった。


「坂本さん?」


 傍にいた浪士の声にはっとなった坂本は、慌てて「何でもない」と首を振った。


「怪我人じゃき、あまり無理させんとええがの」


「はい?」


 坂本はまた笑って微笑むと、右足を少し引き摺るようにして歩き出した。




「う…」

腕を乱暴に扱われている痛みに高杉は目を覚ました。


「ぎん…とき…?」


「ああ」


 銀時はおざなりに返事をするだけで、高杉の腕に包帯を巻きつけている。


 それを見て、高杉は「ああ斬られたのか」とぼんやり思っただけだった。


 暗い天井を見つめながら、これが何処かの蔵らしいことが分かった。


 周りの音は全く聞こえず、外光を遮断された室内は今が昼なのか夜なのかさえ分からない。

「帰って…来たのか」


「ああ。辰馬がお前を運んできた」


「俺の隊は…?」


「大丈夫だ」


 銀時はそう言ったが、鬼兵隊の生き残りの数など把握はしていなかった。


 だが戦で全員生還してくるのは無理な話だ。それは軍を率いている高杉なら当然知っている。


「…そうか。戻れた者がいればいい」


「ああ」


 それから二人は喋らなくなった。


 銀時は黙々と高杉の手当てをしている。

 暗い室内でもぼんやりと映える銀時の銀髪、白い装束。


 その袴にも飛び散っている血の染みを見て、高杉はこいつ等の戦場も散々だったのだろうと虚ろに思った。


「ほら。出来たぞ」


「なんだよ、この雑な巻き方」


「手当てして貰ってその態度かよ」


「お前が…っ」


 起き上がって腕を振り上げた途端、鋭い痛みが走り思わず顔を歪める。


「ほら無理すんな」


 突然ぎゅっと強く抱き締められ、一瞬高杉は驚いたと同時に銀時の意図を見抜いた。


「…またかよ」


「いいだろ」


 高杉の言葉を聞き入れることもなく勝手に着物を脱がしてゆく。


「やめろよ。疲れてんだよ」


「うるせえ」


 銀時の息が上がっている。


 異常なほどの荒い呼吸、汗、熱い体温。


 戦の後の銀時はいつもこうだ。


 欲を持て余し、自分を求める。


 こういう時の銀時ははっきり言って尋常じゃない。


 まるで発情して飢えた獣のようだと思う。


 そして,、いつ首に噛み付かれ殺されるか分からないという恐怖に陥る。


 戦場に赴いている以上、いつ死んでもいい覚悟はしているつもりなのに、この時ほど死を恐ろしいと思うことはない。


 それでなくとも今は体中そこかしこが傷口の鈍痛を訴えている。


 無駄とは思いつつ、高杉は止めるよう口を開いた。


「おい…銀時」


「黙れ。俺は今機嫌悪ィんだよ」


「あ?」


 眉を潜めて銀時の顔を見ると目が合った。


「辰馬に背負われてきやがって」


 最初何の事だか分からなかったが、先の戦場で予想だにしなかった敵の追撃に合い不利に陥った状況下、運良く駆けつけた坂本たちに救われどうにか逃げ切ったことを思い出す。


 その時、殆ど寝ていなかった高杉に坂本が暫く寝たらいいと声をかけてくれた。それからの記憶が曖昧だが、そのまま背負われて此処まで来たのかと全てを理解した。


「…背負われたら何だよ」


 呟いた言葉に、突然銀時が高杉の後ろ髪を引っ張り上向かせた。


「い…っ」


「お前は俺のもんなんだから誰にも触らせんな」


 高杉は絶句し、何も言えなくなった。


 そのまま銀時は高杉の胸の尖りを乱暴に捏ねながら、耳の後ろや首筋に舌を這わせて始める。


 さっきよりも呼吸が荒くなっていた。


 肌にかかる息が燃えるように熱く、全身汗塗れだった。


 心臓の音が此処まで届きそうなほどに早鐘を打っている。


「…いつ俺がお前の物になったよ」


「俺が決めたんだよ」


「俺の意思は」


「知るか」


 カッとなった高杉は思わず怪我をしていない腕を銀時に目掛け振り上げた。


 だがあっさりとその手は取られ、逆に引き寄せられてしまう。


「誰にも…触らせねえ」


「……」


 うっかり赤面してしまった。


 そんな高杉を銀時は乱暴にひっくり返すと、後ろから高杉の口に指を二本捻り込んだ。


「ん、ぐ…っ」


 しっかり舐めろと言わんばかりに傍若無人に指を舌の上で転がす。


 空いている片手で下穿きを剥ぎ取られ、高杉は次の展開を予想して軽い恐怖に苛まれた。


 暫くすると口腔内を動き回っていた指が引き抜かれ、透明な糸を引いて離れる。


 そして湿った指が後孔へと移動し、容赦なく突き立てられた。


「い…っ」


 この瞬間はいつまで経っても慣れない。


 其処が凝縮し、侵入者を阻もうと無意識に入り口を塞ごうとする。


「力抜けよ」


 いつも通りの言葉が囁かれる。


 分かってはいるが、本能的に身体が萎縮してしまうのだ。


 それなのに、こういう時の銀時は本当に非情だ。


 早く入れたくて堪らないとばかりに其処を無理矢理解そうとする。


「はあ…はあ…」


「ん……」


 もう誰の声か分からない。


 薄暗く埃っぽい小さな室内には、互いの呼吸だけが充満している。


 大した時間もかけず、指が引き抜かれた。


 そして指とは比べ物にならないモノが押し当てられる。


 びくりと一瞬戦慄した途端、堅いそれが無理矢理に挿入してきた。


「う…ああ……っ」


 ぎちぎちと穿たれる熱い肉棒。


 高杉は醜く顔を歪ませて目尻から苦痛の涙を滲ませた。


「力抜けって言ってんだろ…っ」


 背後からの掛かる声が苛立ちを訴えている。


「うるせえ…ッ」


 猛烈な圧迫感と痛みに額に汗を滲ませる高杉も、口だけは抵抗を見せようとする。


 益々不機嫌になる銀時は、強引に最後まで押し入った。


「はあ…はあ…っ」


 全てを飲み込みきって、互いに峠を越えたとばかりに息を整える。


 やがて、銀時の手が悪戯するように今始めて高杉の前に触れ、握り込んだ。


「萎えてんじゃねえか」


「たりめーだろ…」


 ぐったりした口調で高杉が答えると、銀時がくくっ喉の奥で笑った。


 そしてゆっくりと腰が引き、再び貫かれる。


 自身の形をまざまざと見せ付けるような緩慢な動きが続く。


「ん……」


 鼻に抜けたような高杉の声にぞくりと肌を泡立たせ、やがて銀時は本格的に動き始めた。


「あ…あ……」


 慣れてきた高杉の内壁は、今度は銀時を離すまいと吸盤のように張り付いて絡んでくる。


 やんわりと口許に笑みを乗せ、銀時は腰を揺らしながら目を閉じて高杉の後ろ首筋に鼻を押し付けた。

 汗と、土と、そして高杉の匂いが入り混じっている。


 自身が益々膨張し、そのまま乱暴に腰を突き上げた。


「うぁ…っ!」


 高杉が一際高く喘いだ。


 片足を持ち上げられ、激しい抽挿が繰り返される。


「あ、あん、はあ…あぁ…っ」


「自分で持てよ」


 銀時が抱えていた膝裏を、高杉自身に持たせ支えるよう命じる。


「じ、冗談じゃねえ…っ」


「じゃあ動かねえぞ」


 ぎろりと銀時を睨みながらも、高杉に拒否権は残っていなかった。


「クソ野郎が…っ」


 自らの足を掲げ、まるで誘っているかのようなあられもない格好に羞恥する。顔は苦痛と圧迫感で持て余す涙でぐちょぐちょだ。


「ひっ、く…あっ…ああ……」


 いつの間にか萎えていた高杉の欲望も天を向き、先端を濡らし始めていた。


 いい所に当たるよう知らず自分で蠢き、絶頂を求めてしまう。


「は…あ、あ、ん……っ」


 喘ぎは次第に甘く、快楽の色を濃くしていった。


 気付けば自らの足に縋りつくようにして、顔の近くにまで抱えている。


「あ…、い…イク…銀と…あぁ…っ!」


 びゅくびゅくと白濁が勢いよく飛び散った。


 全身を痙攣させながら達した喜びに打ち震えるも、銀時は構わず腰を振り続けている。


「ぎ、銀時…やめ…っ」


「俺はまだなんだよっ」


 怒鳴るつけるようにそう言うと、銀時は高杉の肩を押さえ、繋がったまま仰向けに押し倒した。


「あ……」


 また揺すり始めると、くちゅくちゅと下肢から鳴る卑猥な音が耳に届いた。

高杉は達した直後の抽挿がきついのか、何とも言えない苦悶の表情を浮かべている。


「いいなあ…お前のその顔…」


 銀時は高杉のこの顔が好きだった。


 いつも気丈で高飛車な男が、今は自分の下で快楽をひた隠しながら涙を流している。


「死ね…変態…」


「変態はお互い様だろ」


 ぐっといきなり最奥を突かれた。


「…っ!」


 声も出ないほどに何度も揺さぶられる。


 その律動は次第に短く早いものへと変わり、肌と肌がぶつかる音が喧しく轟いた。


 そして頭上から発された呻きの後、体内に熱い迸りが放たれた。


「はあ…はあ…っ」

 全力疾走した後のように激しく息を吐き出しながら、銀時はそのまま高杉の胸の上へと倒れ込んだ。


「退け」


 聞こえているはずなのに銀時は全く動く気配がない。


 小さく息を吐いた高杉は、銀時の肩を掴むと無理矢理下から抜け出ようとする。


 すると、今度は逆に肩を掴まれ、また強く床の上に張り付けられた。


「――っ!」


 驚く間もなく口付けられる。


 噛むように、何度も違う角度で唇を合わせてきた。


 漸く長い口付けが終わり、互いの顔を見合わせる。


「お前だけなんだよ。俺を鎮めてくれるのは」


「……」


「高杉…高す、ぎ…」


 壊れたテープレコーダーのように高杉の名を呼ぶ。


 この後に続く言葉を待って、高杉はじっと銀時を見つめた。


 少しだけ身体を浮かされ、ぎゅっと抱き込まれる。


 高杉は黙ったまま、ゆっくりと銀時の背中に手を回し抱き締め返した。


 暫くして銀時の呼吸が規則正しく繰り返されていることに気付き、高杉は目を上げる。


 銀時は根尽きたように高杉の胸の上で眠ってしまっていた。


 さっきまでの獣じみた顔は何処へやら、今は幼い子供のようなあどけない寝顔を晒している。


 真横にあるその寝顔をじっと眺めながら、高杉はこの日初めて口の端を吊り上げて薄く笑った。


「…銀時、死ぬなよ」


 もう夢の世界へと入っている銀時に向かい呟く。


「俺もオメーに死なれちゃ困るんだから…」


 暗い室内でも映える銀色の髪をくしゃりと撫でつけ、高杉は自分もそのまま目を閉じた。





  



 

「よォ、銀時ィ」


「――!」


 新八、神楽と共に地元の小さな祭りに繰り出した夏の夜。
 
 
一人でぶらりと屋台を眺めていた時、数年ぶりに高杉と再会した。

振り返ると、酒の入った瓢箪を片手に此方を見て笑っている男がいる。


「奇遇だな。相変わらずぴょんぴょんと落ち着かねー頭してやがる」


「…うるせーな」


 澄んだ夜空には幾多もの花火が鮮やかに打ち上げられている。


 我知らず唾を飲み込んだ。


 漆黒の髪、シャープな輪郭、小柄な体躯。


 何もかもが昔のままだが、唯一思い出したのが…。


 ――左目、やっぱり見えないのか…。


 ドン、とまた高く花火が上がった。


 人々は咲き乱れる七色の花火に足を止め、鮮やかに放つ光の空に集中している。


 何も言わず向かい合う男たちは、美しい花火に目もくれず互いの顔をじっと見つめていた。


 まるで此処だけ異空間に区切られた別世界のようだ。


「…何か言いたいことあんのかよ」


 口を曲げて笑っている高杉に向け、銀時がぼそりと呟いた。


「ああ、あるぜェ」


 高杉は少しだけ顎を持ち上げると、楽しそうにククッと笑った。


「今も人を斬った後は欲情するのか?」


「……」


「それとも遊郭にでも行って鎮めてんのか」


 銀時は大股で高杉に歩み寄ると、大きく肌蹴た着物の襟をぐいっと掴み引き上げた。


「言っただろうが。俺はお前じゃないと鎮まらねえんだよ」


「相変わらず変態だな」


「だからもう誰も斬らねえ」


「お前じゃ無理だ」


「てめえは喧嘩売りに来たのか」


 一際大きな花火が上がった。同時に人々の歓声が沸き上がる。


 つい夜空に目を逸らしそうになったその時、突然高杉の顔を近付き、ちゅっと小さく口付けられた。


 一瞬だったが、驚いた銀時は思わず掴んでいた襟首を突き放し、飛び退くように後ずさる。


「なんだよ、昔はよくしたろ」


「お…おま…っ、な…ッ」


 混乱と羞恥で言葉が上手く出てこない。


 空には相変わらず爆音と共に煌びやかな大輪の華が咲いている。


 燃焼経過によって色が変化する花火が、顔に反射し様々な色を映し出した。


 そんな相手を、互いに黙って見詰め合う。


 やがて高杉がくるりと背中を向け、着物の袖口から煙管を取り出した。


 手馴れたように火をつけ、深く吸い込んで美味そうに吐き出す。

 
 ――煙草吸うのか…。


 別に可笑しくはないが、知らなかった高杉との時間を見せつけられたようで少し寂しく思った。


「俺は戦の後のお前、嫌いじゃなかったぜ」


「え…?」


 高杉は煙管を吹かしながら夜空の花火を見て呟いた。


「狂った獣みたいで、興奮した」


「…変態はどっちだよ」


「お互い様だろ」


 顎を上げ可笑しそうにくくっと笑うと、高杉は煙管を持ち上げ「じゃあな」と片手を上げた。


 それを最後に、高杉は人ごみの中にもまれて歩いて行ってしまい、やがて見えなくなった。


 高杉が去って行った頭上から、また幾つもの花火が上がる。


 銀時はぼんやりと自分の唇に触れた。


 口付けられた時、微かにした酒の香り、乾いた薄い唇。


 ふと、高杉とするキスが好きだったことを思い出す。


 ぺろりと一舐めした後、銀時はほんのり笑った。


「銀ちゃーん!」


「銀さんいたいた! もーっ、こんな所にいたんですか」


 聞き慣れた背後の声に、振り返り様笑い返した。


「花火に見惚れてたんだよ」


「そりゃ分かりますけど」


「あっ、今の大きいアルな!」


 ドンドンと打ち上がる花火をまた三人で見上げる。


 ――アイツも見てるかな…。


 高杉との記憶が蘇る。


 あの狂った戦場でどうにか精神を保てたのはあいつがいたからだ。

 堕ちたのもいつだったか。


 ――高杉、死ぬなよ。お前に言ってないことあるんだからな。


 あんなに抱いたのに、どうしても言えなかった言葉。


 ――お前が…。


「…んさん。銀さん? もう花火終わっちゃいましたよ」


 突然横からかけられた新八の声に、銀時ははっとなって静かになった夜空から目を反らした。


「じ、じゃあ帰ぇるか」


「楽しかったアルな!」


 ああ、と言いながら神楽の頭をがしがし撫でた。


 はしゃぎながら前を歩く新八と神楽を眺めながら、ふっと思った。


「夢では言えるかなぁ…いや、絶対言わねえ」


「ん? 何か言ったアルか?」


 焼きとうもろこしを咥えた神楽が振り返り、なんでもないと銀時は笑った。


 夜の涼しい風が心地良く頬を掠める。


 もうすぐ、夏が終わる。



                                                    完




あとがき

すっかり銀高の書き方を忘れてしまいました…orz

もっと酷いイメージで書きたかったんですが、私が書くとソフトですね(^_^;)

どうにもレイプまがいな描写が下手で自己嫌悪です。

結局何が言いたかったかというと、どちらも相手を必要としていたということ。

はい。全然表現出来ていませんね(反省)

どうでもいいその後の話も長くなってしまい申し訳ないです。

それでも少しでも楽しんで頂けた方がいらっしゃったら光栄です。



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