トイウォーズ










蝉の声が喧しく鳴き散らしている夏休み目前の7月。

銀魂高校に響くチャイムの予鈴と共に、廊下で屯していた生徒たちは一斉に教室になだれ込むと 授業の準備を始めるべく個々の席に帰って行く。

椅子を引く騒音が収まれば授業開始の号令がかかり、教師の声と共に教科書を開く音が室内を満たした。

どの教室も同じような音と静寂が包み込む。

学校とは不思議だ。廊下も、講堂も、先ほどまでの喧騒が嘘のように授業中はしんと静まり返る。

 
そのギャップを楽しみつつ、服部全蔵は誰もいない廊下の上をある一室を目指して歩いていた。

目的地に到着すると足を止め、ドアの上に掲げられたプレートを見上げる。


  質素に明記された「保健室」の文字。


  引き戸に手をかけガラリと開けば、いるべきはずの机の前には誰も座っておらず、視線を彷徨わせればベッドの間仕切りカーテンの隙間から足が覗いていた。


  全蔵はあからさまに溜息を吐くと、そちらへと足を運び乱暴にカーテンを引いた。


「朝っぱらから居眠りですか、高杉センセ」


 全蔵の声に、ベッドに仰向けに寝転がっていた人物がぴくりと反応を見せた。


「…なんだ? どこの生徒だ。気分悪いなら帰れ」


「気分悪いなら寝かせてやるのが此処でしょうが」


 鬱陶しそうに目を開いたのは片方だけで、半分は眼帯で隠されているのはいつものことだ。


「…なんだ。アンタか」


 むくりと起き上がった男は、少し皺の寄った白衣を気にもせずベッドから下りると、首をコキコキ鳴らしながら定置の机を目指し座り込んだ。


「授業はどうした?」


「今日は二時限からだ。それよりアンタいつもあんななのか」


「何が」


「保健室に訪れた生徒、追い出すのかよ」


 ああ、と男は胸ポケットから煙草を取り出し吸い始める。


「シャレですよ。本気じゃねえ」


「どうだか」


 肩を揺らして楽しそうに煙草を咥える男を、全蔵はじっと見つめていた。


 高杉晋助。この春に転任してきた保険医だ。


 最初に会った時からあまり良い印象は持たなかった。


 原因はこれと言ってないが、強いて言うなら苦手意識が先立ち、直感的に危険だと本能が訴えていた。


 直感力には自信がある。全蔵はすぐに壁を置いた。


 出来れば最後まで関わりたくない人物だった。


 なのに、何故わざわざ此処に来たかと言えば理由がある。


「えーっと…高杉センセ。これ、ありがとうございました」


 高杉が煙を吐き出しがてら振り返る。


 全蔵の手にはチューブ状の塗り薬が翳されていた。


 



 時は遡り先週末のこと。


 全蔵は毎度の如く、校内便所の個室で痔と格闘していた。


 長居してしまうのでジャンプは必須。漸く決着がつき個室を出ると、手洗い場の前で男が一人立っていた。


 この学校で白衣を着ているのは国語教師の坂田銀八か保険医くらいだ。


 鏡越しに目が合った途端、その男は口端を吊り上げ薄く笑った。


「随分長いトイレだなァ」


「…痔持ちなんで」


 苦手なこの男に正直な事情を言ったのは話を長引かせたくないからだ。


「痔か。そりゃあ難儀だな。悪いのかい」


 全蔵ははっとした。


 保険医なんだから身体のことを聞かれて当然だ。


「そ、そんなに悪くはない。医者に通ってるほどでもねーし」


 なるほど、と高杉は肩を竦ませた後白衣のポケットに手を忍ばせた。


「…?」


「俺も痔持ちなんだよ。よく効く薬だから良かったどうぞ」


 高杉が差し出した手の中にはチューブ状の薬が握られていた。


「…アンタもそうなのか?」


「ああ。心配しなくても新品だから」


 予想だにしなかった展開に驚きつつも、全蔵はそっとその薬を手に取る。


「…見たことない薬だな」


「まあ合わなければ捨てればいい。改善することを祈ってるぜ」


 それを最後に高杉はトイレを出て行った。


 残された全蔵は半分惚けながら頭を掻き、手中の薬品を見つめる。


「…案外いい奴なのかもな」


 同じ痔仲間と知った途端、一気に親近感の沸いた単純な全蔵だった。




 


 小さなチューブは既にほぼ使い出した代物となっており、高杉は少し目を上げて思い出したようにああ、と一言声を発した。


 そしてくるりと回転椅子を回し向き合うと満足そうににっこりと笑う。


「お役に立ったかい」


「ええ。今まで使っていた薬とは段違いで…。でね、これ早速同じものを薬局に買いに行ったんだが置いてなくて…薬剤師に訊ねても変な顔されちまって」


「そりゃあそうだろうよ」


 機嫌よくクスクス笑う高杉を訝しく思いつつ「病院の薬なのか?」と全蔵は訊ねた。


「違げーよ。それローションだから」


「あん?」


 高杉に吊られて思わず粗暴な物言いで聞き返すと、高杉はまたも楽しそうに笑った。


「それ、ムズムズしたりとかしなかったか?」


「あ、ああ…少し痒くなった気もしたが…それは肌に合わなかったのかも知れねーな」


「それ媚薬入りだから、少し痒くなったり熱くなったりするのは当然だ」


「へ……?」


 全蔵の中で嫌な予感が芽生え始める。


「ロ、ローションってもしかして…」


「セックス用のローションだよ」


 たちまち全蔵の顔がかーっと茹蛸のように熱くなる。


「痔の薬じゃなかったのかよっ!!」


 思わず怒鳴った全蔵に高杉は全く悪びれず、それどころか急に目を細めて言い募った。


「で、アンタどう処理したんだ?」


「…は?」


 クスクスと肩を揺らし、高杉はいやらしい目を更に深くした。


「痒くて熱くて溜まんなかっただろう? 自分で処理したのか?」


「……っ」


 全蔵は更に真っ赤になって言い返す言葉をなくし、ぐっと押し黙った。


 その全蔵をにやにやと眺めながら、高杉は追い討ちをかけるようにそろりと顔を近づけた。


「それとも銀八に頼んだか」


「――ッ!!」


 今度こそ全蔵は心臓を鷲掴まれたように驚き、後ろに飛び退いた。


 クックッと低く押し笑い、高杉は背を反らして首を傾ける。


「全く困ったもんだなァ。生徒どころか同僚にまで手を出すとはな」


「……」


 高杉と坂田銀八が大学の同級生だったことは知っている。


 高杉が赴任して来て職員全員に紹介された時、銀八の顔が珍しく蒼白していたのは記憶に新しい。


「…アンタ、俺をからかったのか」


 そんなことより、全蔵にはもっと許せないことがあった。


「気のいい保健医のふりして、俺にこんなふざけた物押し付けて」


「痔に良さそうだと踏んだだけだよ。他意はねえ」


「やっぱりアンタとは気が合いそうもねえな」


 全蔵はポケットから小さな箱を取り出すと高杉に向かって放り投げた。


 片手で受け取った高杉は、その箱の薬品名を見て僅かに目を丸める。


 でかでかと明記されたポラギノールの文字。


「アンタも痔だと信じて愛用してるそれ買っておいたんだが、礼なんか必要なかったな」


「……」


「少しでもいい奴だと思った俺がバカだったよ。もう話し掛けんでくれ」


 くるりと背を向けると、全蔵はそのまま保健室を出て行こうとした。


「待てよ」


「うるせー」


「待てって」


 無視して引き戸に手をかけた瞬間、顔のすぐ横に何かが突き刺さった。


 視線だけでそれを確認すれば、ドアに深々と銀色の光を放つメスが突き刺さっている。


 ゆっくりとした動作で振り返れば、薄く笑みを刻んでいる高杉と目が合った。


「謝りますよ。服部先生」


「…それが謝る態度か」


 まあまあと言いながら、高杉は全蔵に渡されたポラギノールの箱を破って中身を取り出した。


「痔持ちの味方ですよねえ、これは」


「……」


「先生はあれですか。銀八のせいで痔に?」


「…まさかアンタも銀八と?」


 やはり曖昧に笑うだけの高杉は、ポラギノールのキャップを回して開けると中身を嗅ぐようにして鼻に近づけた。


「…これちょっと匂いが古いな。使用期限過ぎてないか?」


「え?」


 そんなはずは、と言いながら再び高杉の元に足を向け手元の薬品に目を凝らせる。


 高杉が薬を突きつけてきたので鼻先を近付けると、突然手を引っ張られて前倒しになった。


「何す…っ」


「アンタがあんな想像させたのが悪いんだぜ」


「は?」


 怪訝に顔を上げた途端、後頭部を掴まれて高杉の唇で口を塞がれた。


「んん…っ!」


 強引に入り込んできた舌が傍若無人に全蔵の口腔を動き回る。


 くちゅくちゅと粘質な音と荒い息遣いが静かな保健室に相応しくない音色を響かせる。


 その時、何故全蔵はそれを拒まなかったのか分からなかった。


 ただ、思いの外高杉の舌が熱くて、いつも人を冷めた目で見ている男という印象が強かったせいか不思議な感じがした。

お互いの唾液が混じり合い、舌を絡ませる行為はまるで口腔だけで性交しているような気分だ。


「…なんだ。嫌がらないのか」


「嫌がった方がいいのか」


 まあな、と高杉は口端についた唾液を指先で拭いながら小さく笑う。


「銀八とはいつからだ?」


「…今は、関係ねえ」


「ふーん…」


「…なんだよ?」


 全てを理解したような高杉の態度に全蔵が目を尖らせる。


 不意に腕を掴まれ、再び顔が接近した。


「お前だって分かっているはずだろう?」


「……」


「あいつはただのガキだ。一度使った玩具は自分の物にしたがる。我侭で独占欲の強く、おまけにサディストの変態だ」


 隻眼の目が鋭く細められ、全蔵の背中からひやりとした汗が流れ落ちる。


 長い沈黙が続いた。


 互いに目を逸らさず、じっと相手の目を覗き込む。


「…だったら、そんな奴に付き合ってた俺もアンタも変態だな」


 沈黙を破ったのは全蔵だった。


 その言葉に一瞬だけ高杉は目を見開いたが、後には笑って大爆笑した。


「さすが服部先生。自己分析に長けていらっしゃる」


「俺もアンタも同等だと言ったんだぞ」


「そうだな。俺たちは似ている」


 高杉はすっと立ち上がると、全蔵のしていたネクタイに手を掛け器用にするすると解き始めた。


「どっちがいい?」


「俺は痔だと言ってるだろうが」


「じゃあ俺が下でいいぜ。それともそっちのがアンタは燃えるか?」


「抜かせ」


 それから黙って二人は唇を重ね合わせた。




 


 閉め切った部屋の中でも遠くで聞こえる蝉の声が耳に届き、まだ朝なのだとぼんやり思う。


 聞こえるのは、そんな平和な外の世界と真下で鳴る濡れた音。


「暑ィな……」


 思わず呟くと、下肢にあった顔がちらりと目を上げてきた。


「だったらカーテン開ければいいだろう」


「無理だ。無理無理」


 平静を装うように声を荒げたが、下肢の男はふっと笑っただけでまた口にモノを含ませた。


 此処は神聖な保健室だ。


 ベッドを覆っている仕切りカーテンを少しでも開ければ冷たいクーラーの風が取り込めるかも知れないが、いつ誰が入ってくるかも分からない場でこんな不条理な行為に及んでしまったのだし、少しでも隠れたくなるのは仕方がない。


「…っう」


 ねっとりと絡まる舌の動きに思わず唸る。


 ジュプジュプとわざと大きな音を立てて吸う様を、全蔵は隠れるように息を詰まらせながら魅入っていた。


 額からつ、と汗が滴り落ちる。


 それは決して部屋の空気が暑いからという訳でなく、下肢からくる熱で体温が上昇しているせいだ。


「お、おい…もういいよ」


 早くも根を上げた全蔵に、高杉が顔を上げて苦笑を浮かべた。


「意外に早そうだな。もう先汁が出てるぞ」


「う、うるせえなっ」


 全蔵は真っ赤になると勢いつけて高杉を押し倒した。


「もう少し優しくしろよ。それともお前もアッチの人間か」


「男相手に優しくする必要なんてねえだろ」


 そう言うと、全蔵は高杉の首筋に舌を這わせ、肌蹴たシャツの隙間から強引に手を入れて胸の尖りを弄り出した。


 互いの吐息が熱を帯びる。


 遠くのグラウンドではしゃいでいる生徒の声が聞こえていた。


 とても不謹慎だと思う。


「早く終わらせるぞ」


「クックック。せっかちだなァ。少しは楽しめよ」


 肩を震わせて楽しそうに笑っている高杉とは逆に、全蔵は余裕がなかった。


「……っ」


 ぐちゅりと音を立てて入り込んだ指に、高杉がはじめて顔を歪ませた。


「う…ふ……ッ」


 必死で息を吐こうとしている高杉は、言葉で言うほど慣れていないようだった。


 意外な反応に、全蔵は真下にいる隻眼の男をまじまじと見つめる。


「…なに、見てんだよ……ッ」


「…ローション、足りてねえか?」


 目を眇める高杉に構わず、全蔵はもう一度持っていたチューブのローションを絞り出してソコに塗りつけた。


「あ、痛…っ、あ…」


 全蔵は男を抱くのは初めてだった。


 銀八には散々抱かれてきたのに、男を押し倒したことは一度もなかった。


 女とは違う新鮮な反応に、思いがけず欲情に火が付いた。


 指を増やして乱暴に中をかき回すと、溜まらず高杉は苦悶の表情を浮かべる。


「…なんだ、アンタそういう顔も出来るんだな」


「あ…?」


 隻眼の目と合った時、指を引き抜いた。


 そして膨張した自身を押し当てる。


 高杉はひゅっと息を呑んで、次に来る圧迫感を予期し肩を竦めた。


「可愛いじゃねえか。案外」


 長い前髪の隙間から覗きこんだ瞳に、高杉は一瞬目を奪われる。


 互いに目を合わせたまま、全蔵の熱い塊がくちゅりと卑猥な音を伴いながらゆっくりと挿入してきた。


「はあ……」


 全部入りきると、内壁の暖かさに思わず全蔵は熱い息を吐き出した。


「早く動け」


 堪能したまま一向に動く気配のない全蔵に焦がれ、高杉が溜まらず声をかける。


「何だよ。さっきはゆっくり楽しめって言ってただろうが」


「てめーはさっきと違うじゃねーか」


「口の悪い保健医さんだな」


 ぐいっと突然大きく全蔵が動いた。


「…ッ?!」


 いきなりの衝撃に高杉は思わず顎を逸らし、声にならない声を上げた。


「あっ、あっ…っ」


 それから激しい律動が開始された。


 後孔を壊す勢いで出し入れされるたび、高杉の口からは引っ切り無しに嬌声が漏れる。


「あ、はぁ…、あん…っあ……ッ」


 息を吐くのも侭ならないほどに、全蔵の欲望に貫かれ、かき回される。


「何処だ? 何処が良いんだアンタ」


 耳元で息荒く囁かれ、高杉はぞわりと肌を泡立たせた。


「ひぃ…あ、あぅ…はあ…っ!」


 びくりと一瞬浮き上がった箇所を見つけ、全蔵は其処を中心に攻め立てた。


「い、いい…っ、そこ…っん…あぁ…」


 嬌声はどんどん艶を帯び、恍惚とした表情へと変わっていく。


 それを上から眺めながら、全蔵は口端を吊り上げ笑みを浮かべた。


「ああ…俺もいいぜ…」


 突然動きを止め高杉から抜け出ると、今度は高杉を起こし自分の上に跨らせる。


「自分から入れてみな」


 高杉の顔が一瞬赤く染まった。


 だが、次にはまたいつもの笑みが浮かび上がる。


「クク…やっぱりアンタもあいつと一緒じゃねえか」


「何とでも言え」


 久しぶりのセックスに溺れているのもあるだろうが、何より、高杉の表情に魅入っていた。


 いつも余裕に満ちた顔で人と対話している男が、今は自分の上で妖艶な色香を放ちながら少しキツそうに自らの中に導こうとしている。全蔵は隠れるように生唾を飲み込んだ。


「く……っ」

 途中まで入りきったところで、一度息を吐いて呼吸を整える高杉を下から眺め、意地悪く煽る。


「ほら、まだだろ」


 悪戯するように半勃ちしている高杉の前を握り込んだ。


「ッ…、やめ…っ」


 爪を立てるように先端を弄れば、高杉は益々切羽詰ったような顔で全蔵を睨みつけてきた。


「はあ…は…クソ…今度はてめーの番だ」


 ずんっと最後まで腰を落としてきた高杉は、全部を呑み込んだことに漸くと云う思いで息を吐き出した。


 そして次第にゆるゆると全蔵の上で腰を揺らし始める。


「ん…あ……」


「いいぜ…アンタ……」


 恍惚とした声で言い、全蔵は高杉の腰を掴んだ。


 そして彼を助けるように下から腰を突き上げ始める。


「はあ…ああ…っ、あ、あ、あ…ッ」


 グチュグチュと執拗に感じる部分を擦り上げられ、高杉ははしたなく喘いだ。


 いつの間にか快楽だけを追い、全蔵の動きが止まっているのも知らず自分だけで腰を使っている。


 全蔵に扱かれている陰茎の先端は既にだらだらと先走りの汁を垂らしていた。


「やぁ…ぅん…ぁん…はぁっ、イク…」


 絶頂は瞬く間に訪れるが、根本を締め上げられていて侭ならない。


 握られている全蔵の手を退けようと、高杉は手を伸ばした。


 解こうとするが強い力はびくともしなかった。解放できない苦痛に涙が頬を伝い落ちた。


「離せ…っ、イかせろ…ッ!」


「なるほど、な」


 全蔵の声に高杉が目を上げると、突然身体が傾き力強く押し倒された。


「あ……」


「あいつの気持ちが分かったぜ。泣いてる奴を犯すのは最高のエクスタシーだな」

 目が片方しか見れないのは残念だが、眼帯をしているのも嗜虐心を煽るようで悪くない。


「ひぁ…っ!」


 ずんと最奥を貫かれ、高杉は大きく目を見開いた。


 激しく打ち付けられるたびに、また射精感が押し寄せる。


「いっ…いい…あぁ、んぁ…はぁん……あっ」


 大きく双丘を広げられ、腰を浮かし、あられもない格好のまま高杉は甲高く喘いだ。


「高杉……くっ」


 ぶるりと全蔵の身体が震える。


「ぁんっ、や…ああっ――!!」


 高杉の中に全蔵の熱い欲望が弾けた。


 同時、高杉も全蔵の腹に白濁を撒き散らしていた。


「はあ…はあ……」


 互いに荒い吐息を吐き出しながら暫く身体を重ねていた。


 やがてゆっくりと全蔵のモノが引き抜かれた。


 呑み込めなかった精液がどろりと股を伝う感覚に、高杉が僅かに眉を顰める。


 汗で張り付いた高杉の前髪を退けてやりながら、全蔵がゆっくり口を開いた。


「結構好き者だな、アンタ。でかい声出しやがって」


「ローションのせいだろ」


 互いに目を合わせると、声を出さずに鼻で笑った。


 そのまま気持ち良く目を閉じかけた時、キンコーンと授業終了のチャイムの音が鳴り響いた。


 一気に現実に引き戻された全蔵は、途端勢いよく起き上がった。


 そしてベッドの下に散らばらせていた服を引っ掴み身に着け始める。


「やべッ! こんな所人に見られたら…っ」


 大慌てでシャツのボタンを留めながら、隣でぽかんとしている高杉に全蔵が「お前も早く服着ろ!」と大声を張り上げた。


「なんだ。今更」


「なんだもクソもねーんだよっ! 早くしろっ!」


 焦がれた全蔵は無理矢理高杉にズボンを履かせシャツを羽織らせる。


 廊下からはがやがやと授業から開放された生徒たちの声で溢れかえり始めていた。


「よし。じゃ、俺は帰っから!」


「……」


 さっさとカーテンを開けて出て行こうとしたが、一人取り残された高杉の視線を感じて恐る恐る振り返る。


「…何?」


「忘れ物」


 突然顔面に飛んできた物を片手で掴む。そのまま手の中の物を確認すれば、それは先程全蔵が使ったローションだった。


「…んだよ。もう全部使い切っただろ」


「てめえが捨てろ」


 何で俺が、と言いながらカーテンを引いた時、丁度がらりとドアが開き人が入ってきた。


「あれ。服部先生」


 顔を上げた先に見た男は、全蔵が今最も会いたくない男だった。


「ぎ、銀八…!!」


「じゃあ俺は銭湯行って来る」


 いきなり届いた背後の声に振り返ると、高杉がベッドを下りてスリッパを履いているところだった。


「銭湯?」


 聞いたのは銀八で、高杉は黙って二人の間をすり抜けた。


「汗かいたし体中ベトベトで気持ち悪いんだよ」


「汗?」


 こんなクーラーがビンビンに冷えている室内で何故汗をかくのだろうと銀八が顔を顰めている中、全蔵は一人真っ青になって固まっている。


「二、三時間したら帰ってくっから、それまで留守番頼むわ」


「おいおい、無責任な保健医さんだな。お前が欲しがっていた薬、ネットで買って持ってきてやったのによ」


 銀八の科白に振り返った高杉が、にっこり微笑みながら口を開いた。


「あーそれ、そこの服部先生の愛用してるやつだ。気に入ったみてーだし渡しておいてくれ」


「え…っ」


 全蔵に目線を移した途端、手にしている同じ薬品を見て銀八の目の色が変わる。


 そうこうしているうちに高杉はとっとと部屋を出て行ってしまった。


 閉じたドアを全蔵が呆然と眺めていると、燃えるような視線が横から突き刺さり、びくりと肩を竦めた。


 青褪めたまま視線を向ければ、怒気を露にした銀八と目が合った。


「俺という者がありながらこの淫乱ビッチがぁ……(怒)」


「へ……?」


 その後、全蔵の声にならない絶叫が轟いた。


 夏の青い空の下、高杉が校舎を背にして悠々と歩いてゆく。


「本当ガキだな。あいつも、俺たちも…」


 自分で呟いて可笑しくなった高杉は、押し殺した笑みを浮かべながら煙草を咥えた。




後日――


To服部先生 お尻の具合はどうですか またいい薬があったら紹介しますよ 高杉』


 『
Re結構です(-_-メ) 服部』



END



 

 



あとがき

全蔵は元々好きなキャラですが、なにぶん忍なので銀さんたちとしか交流がないですよね。

それでどうしても高杉と絡ませたくて考えた末、やはりここは3Zに(^_^;)

少しでもいつもの3Zと変化をつけたかったので高杉は保健医にしましたが、こんな保健の先生いませんよね。

相変わらず自己満と強引展開で失礼しました。

しかし全蔵は可愛いですね。



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